代表の佐藤です。
最近建築業界を(悪い意味で)賑わせている言葉に「ウッド・ショック」というものがあります。
住宅業界襲う「ウッドショック」 3カ月で木材価格1.5倍に 日経ビジネス 2021年5月17日
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00145/051400035/
新型感染症蔓延の影響で、リモートワークで自宅にこもるようになった米国、中国の国民が、住宅を郊外に新しく購入したり、リフォームを盛んに始めたりしたからだと言われています。
これにより、元々落ちていた木材供給力とそこに海運業界のタイトな物流事情も加わり、世界中の木材を高値で買いつけていることで、世界中で木材の奪い合いが始まっているのです。
日本は、米材や欧州材への依存度が高く、価格の高騰に追いつけずに買い負けているため木材不足に陥っています。
そのことで木材価格が急騰していることを「バブルだ」として、ウッド・ショックと言っているのですね。
さて、これは「バブル」なのか。
そもそも「バブル」とはいったいなんなのか。
このことを書いていきたいと思います。
バブルとは物価が急騰することではありません
ひとつの結論として、今起きているこのウッド・ショックをバブルだとすることは誤りです。
先述しているように、リモートワークという環境によって住宅の購入や、リフォームをするという需要が生まれ、その供給を行っています。
実需があり供給側の不足によって起こる需給ギャップで価格の上昇が起きていることは通常のことです。
この価格急騰の解決方法は、供給力を増やすか、需要が一服することで解消されます。
供給側としては、木材の生産量や流通の増加を行う。
需要側としては、この新型感染症によるリモートワーク需要が一周して落ち着くか、そもそもの感染症蔓延が落ち着くことです。
このように出口が見えていることはバブルとは定義しません。
単なる(ある種限定的な)経済成長であり、需給がバランスされるある時点に到達すると安定します。
当然過剰な設備投資による供給過多や、急激な需要の収縮によって木材価格の急落ということは発生しますが、それを以ってバブル崩壊とも言いません。
ではバブルとは何なのか
もともと「バブル」は「泡」を意味する語なので、泡沫景気(ほうまつけいき)と呼ばれることもあります。
実体経済から乖離して資産価格が一時的に大幅に高騰し、その後急速に資産価格の下落が起こる様子が中身のない泡が膨れて弾ける様子に似て見えることからこのように呼称します。
バブルとは、この「実体経済から乖離して資産価格が一時的に大幅に高騰」することがポイントとなる概念です。
(官公需、民需ともに)消費者が実際に必要とする需要、消費するための需要とは違い、バブルの需要は消費が行われません。
株などの証券や土地の売買はGDPに含まれません。
GDPとはGross Domestic Productの省略で、国内総生産と訳されますが、実際の計測は消費が行われた額の合計で測られるのです。
投機が実経済では無いというのはこういった理由からなのです。
バブルは、金融的な投資差益、キャピタルゲインを狙う投機行為が蔓延すること、さらにその投機のために借り入れが膨らむことが特徴です。
以前書きました通り、貨幣とは負債です。
元来、負債は生み出される価値と対になって表れるコインの裏表のものですが、バブルは生み出される実際の価値を超えた「余剰の額面」に負債が対となって増えてしまいます。
つまり、株などの証券や土地の売買という、実際の消費が行われないにも関わらず負債が膨らむ、という異常事態が「バブル」ということになります。
このことを「実体経済から乖離」している、というのです。
一方、投機的・キャピタルゲイン目的でない、通常の投資(設備や人材、宣伝など)は、消費を伴う需要ですからバブルとはなりません。
公的資金を投入することも、そのこと自体はバブルではありません。
公的な投資も、実需が伴っている実体経済であるからです。
しかし、実態が伴っていればバブルの危険性が無いか、というとそれはまた別の問題です。
バブルとは虚像が虚像を生む合わせ鏡構造
もちろん、通常の投資でも過剰な投資ともなれば、過剰供給となって投資分を回収できなかったり、それが元でその企業が倒産などすれば投資資金を融通した金融機関が不良債権を抱えることにもなりますが、これもバブルとは関係がありません。
実態が伴っている状態で価格が高騰することや不良債権が発生することをバブルというのではなく、実体経済と乖離している状況をバブルと説明しました。
しかし、実態が伴っている状態を元にして実態から乖離して行く状況というものは発生します。
現在のウッド・ショックが誤った道を進んだ世界線を想像し、バブルの発生・進行する一例をシミュレーションしてみましょう。
- 木材価格の高騰は主に供給力の不足によって起きている
- よって供給能力を高めましょう
- とはいえ、今までの需要不足から供給能力を減らしてきているのでキャッチアップするのは難しい
- 政府:では供給能力が整うまで、時限的に「住宅購入への補助」として公的資金を投入しましょう
- 資金的に余裕ができても木が育つまで時間かかるし、林業の人手も育たないと…
- 木材の希少性により住宅価格上昇が続く
- これを受け、リモートワークもあり都心にいる必要性が薄れたことから、比較的安価な郊外の土地の需要が増す
- カリスマ投機家:これからは郊外の時代です!人気です!今買え!すぐ買え!絶対儲かる!借金してでも買え!
- カリスマにそそのかされたノンプロ:買ったら売って、売れたお金に借金をプラスしてまた買って、売って、買って・・・
- 郊外不動産価格が徐々に上昇
- 土地購入のローンや土地取得手続きなど煩雑な手続きを省くような金融商品の発生。証券化。←虚像の発生!
- 格付け会社:郊外のリゾート地で仕事をする時代です!人気です!どんどん価値が高まっています!間違いない!
- ノンプロ投機家:土地そのものでなく証券の売買をし始める。
・・・・・
極端でしょうか?
そんなわけないだろう、って?
しかし、残念ながら歴史的にバブルはこのように作られてきました。
- 土地、ゴルフ・リゾートマンションなど会員権バブル。いわゆる日本のイメージするバブル。
- 実現性・商業性の疑わしいベンチャーへの過剰投機が生んだITバブル。
- 低所得者向けサブプライムローン証券の破綻、リーマンブラザーズ倒産によるショック。
ちなみにこのリーマン・ショックが上の例に近いです。
おわかりでしょうか。
つまり、問題は虚像を生みだしそれを売買して利ザヤを獲る「投機」活動そのものなのです。
バブル抑制のための提言
日本のバブルを崩壊させたのはいわゆる「総量規制」といわれる金融機関の融資規制です。
例外はありますが、簡単に説明すると「貸金業者が行う貸し付けは、本人の年収の3分の1を超えてはならない」というものです。
融資の規制によって、自転車操業的に負債を膨らませながら売買を繰り返していた投機モデルが崩壊し、売り抜けることに失敗した負債とその不良債権が大量に残りました。
よって、この総量規制によって、日本では投機の連鎖によるバブルは起きにくい土壌になっています。
しかし、ただこれにより、本来起こるべき投資も縮小してしまい、また不良債権処理のため債務弁済に貨幣が回ってしまうことで市場の貨幣も不足が続いています。
バブルは抑制できても経済成長ができない、むしろバブルを恐れるあまり経済成長を否定するかのような言説まで蔓延しています。
このように、総量規制はバブル抑制の「劇薬」であり、またその後の景気を後退させる・経済成長を抑制する「遅効性の毒薬」でもあるのです。
これらに対する処方箋は実はすでに書いています。
税です。
税の「行動を抑制する」機能を活用します。
この事で、実は総量規制も解除することが可能となります。
まず、現在の租税は非常に歪んでいます。
GDPに現れない、何の付加価値も生み出していない投資活動によって生まれた収入に対して、通常の売買や労働に課せられる法人税・所得税のような税率が課せられていません。
正確に言えば、20%程度の源泉徴収率であり、所得税からも高い控除を受ける仕様になっています。
これでは付加価値を生みだす事は抑制され、何も生み出さない事を推奨していると宣言していることになります。
この歪みを是正する必要があります。
とはいえ、投資の全ての収入に対して高い税率を課してしまいますと、健全な投資(いわゆる設備投資・教育・人材育成など)も抑制され、さらなるマイナス成長を促進させてしまいます。
投資というものは絶対的に必要なことです。
問題は資産の売買による差益・キャピタルゲイン目的の投機行動です。
投「資」を促しつつ、この投「機」行動を抑制するには、
「資産の売買における収益にも所得税と同等もしくはより高い税率の累進課税を採用し、控除を廃止する。」
これが佐藤の提言となります。
しかしそれでは投資家の収益が減少し、投資が減るのではないか?と思われるかも知れません。
しかし、いわゆる株式の「配当」や「優待」のような投資物件を保持し続けることで得られる便益に上記の提言を採用しさえしなければ、投機目的以外のふつうの投資家には影響しないと考えています。
考えています、というと佐藤の妄想かと思われてしまうでしょうが(苦笑)
ちゃんとエビデンスもあります。
個人投資家の意識調査が指し示す事実
日本証券業協会 平成30年度個人投資家の証券投資に関する意識調査
https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/files/kojn_isiki/20190131ishikichousa.pdf
クリックして20190131ishikichousa.pdfにアクセス
投資方針と保有期間を抜粋しますと
キャピタルゲインを目的とした投資方針を取っているのは全体で14.5%に過ぎません。
しかし、概ね長期保有だが値上がり益があれば売却するという層が49.9%います。
また、平均保有期間で3年以上という中長期に渡って保有する層が58%。
短期で売買を繰り返す投機目的の場合は、長くともクォーターごとに判断をするだろうと考え、1年でも長期保有とも言えるとすると、1年以上の保有率は76.3%にものぼることがわかります。
つまり、ほとんどの個人投資家は投機目的で投資行動を行っているわけではなく、しかし利益が確定できる場合には売却を考えていることがわかります。
いわゆる日和見層ですね。
先述のバブルの発生・進行シミュレーションで示したように、キャピタルゲイン目的の投機筋につられて市場が動くことで、基本的には長期保有して実経済を支援する健全な投資家が引っ張られて短期収益型の投機に闇落ちしやすいことが見てとれます。
これら長期保有してくれるホワイト投資家にとって、通常の経済状況においてはキャピタルゲインは主な目的では無いため、キャピタルゲインで得た収益への税法変更の影響は微小と考えられるのです。
健康のために、善玉菌を助け、日和見菌を味方につけろ!
投機筋を悪く言い募りましたが、何も彼らを追い出せとか言っているわけではありません。
腸内細菌でも悪玉菌は一定数存在することは容認しつつ、善玉菌を活性化し、日和見菌が悪玉菌化しないようにコントロールすることが健康維持に必要だと言われています。
経済とはおカネを稼ぐことではありません。
価値を生みだすことへの投資と労働がGDPを増やし、日本国家繁栄と経済発展につながるのです。
「価値」というものについてもいずれ書かないといけないかも知れませんが、長くなりましたのでこの辺で。
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