みなさま、こんにちは。北川です。
たびたび、落語について、贔屓の噺家についてなど拙い文章を書いておりますが、そもそも落語(家)がおもしろいとおもったのは立川談志が存命のころ、NHKBSで晩年の姿を永遠の反逆児として放送したものをみてからでした。居残り佐平次を観ました。
昔から毀誉褒貶には枚挙暇ない人物で有名でしたが、つまりは落語を演じる以外の言動がいちいち面白かったことに拠ります。
当時談春さんら弟子たちが、練馬時代の家元とのエピソードの数々を披露したのをみて、そら弟子でも絶句するわなという驚きと、寄席に出れず(家元の用事以外に)毎日自分で課題を考えクリアしていかないことには、プロとしてまったく世に知られることない現実の厳しさに魂消ました。談志は忙しいので弟子に大して稽古などつけません。
落語立川流とは、2024年志の輔さんを代表理事とし一般社団法人の認可をうけましたが、その歴史は寄席※から締め出された流浪の民と変わりありません。家元はなにもせずとも仕事がばんばん来るわけですが、弟子たちは志の輔以外に活躍の場などそうはありません。
落協・芸協の寄席芸人たちがお給金はやすくとも、年中お客様の目に触れる寄席で前座修行~高座披露で切磋琢磨するのは案外理にかなっており、寄席でトリをとれるころには全国各地からおよびかかるのが常です。つまり、徐々に出世をしていく舞台として年中寄席が用意されているのかとおもいます。
 ※都内4か所の老舗寄席は席亭(社長)により、落語協会と落語芸術協会の芸人にしか出番があたえられません。但し鈴本のみ芸協は出禁
立川流は、定席をもたず永谷商事の演芸場(寄席より簡易的なしつらえ)でしかレギュラー的出番はありませんので、自分たちで場所を借り落語会を企画/集客しないことには世間に落語を聴かせる場はありません。
もうひとつの浮浪雲である円楽一門会は、そのような苦労を危惧して「若竹」という自前の寄席を五代目円楽が自費で建立しました。これは顔付けが限られるため一長一短なのですが、大師匠である圓生師の遺志をも継いだ賢明な考えだったとおもいます。なぜ資産家の談志もおなじことをしなかったのか不思議なくらい。
立川流で志の輔以降(落語協会脱会後)の弟子たちは、談志基準の厳しい考査をクリアしたものしか出世できず、大量の前座・二つ目が路頭に迷った挙句、あちこちに原稿執筆し糊口を凌ぐので有名になりました。うそのようですが落語より物書きで収入を得ていたのです。裏をかえすと、談志個人はいくらでも仕事がくるものの、談志が認めた真打たちでも、世間/演芸ファンはあまり評価をしなかったという厳しい現実があるとおもうのです。
落語協会、落語芸術協会の芸人たちは、柳派(古今亭含)や林家、三遊亭などいくつか相撲部屋のような流派があり、やはり相撲のように、一門のうえに同門(同根、大師匠の弟子から派生)という概念があって寄席だけでなく様々な落語会で共演をしては次の出番を約束していきます。組合のように、お客様にたいしてセットでおたのしみを提供していく(芸風やねたを被さない)うまい仕組みになっています。これはお客からしても満遍なく楽しめる御得感あふれるエコシステムだとおもいます。
他方の立川流とは、野武士集団のように道端で落語を聴かせるくらいの勢いで、なごやかな演芸ファンの好む寄席文化と乖離していったのかなと感じます。勉強会からはじまり独演会や二人会などへ必死に呼び込みをしていたわけで、異端の落語家へ熱狂してくれといわんばかりに各人がおもいおもいの個性を露呈していたのです。皮肉にも談志のように野放図です。
最近、昇々さんやA太郎さん。さらに喬太郎さん、文蔵さんの高座をうかがう機会があり、わたしが贔屓していたかつての吉幸さんや談幸さんたちの内弁慶が仕方ないとはいえ窮屈な鳥かごのようにみえてきました。二人はいまや芸協所属です。
ふときづいたのですが、かつては寄席がつまらないと立川流を肯定していたのが、寄席も顔付け次第でかなりおもしろいと感じるようになり、180度認識がかわったのです。自分でもまったく意外なことでありました。寄席の劇場としてのしつらえがやけに落ち着くなあとおもったのも意外でした。喬太郎さんのふざけたフラを間近でみれたのも、予想以上におもしろかったのです。
落語とは、絵画を美術館でみるのといっしょで、実物を生で観たほうが断然おもしろいです。
定席でじっくりおちついて贔屓のこれぞと目をつけている落語家が、15分の出番でもしっかりウケをとる鮮やかさ、とぼけたフラをみせてくれるのには、3000円払っても十分満足が得られます。
いままで寄席はのんべんだらりと愛想いってるじじい共ばかりと思っていたら、10日間の芝居中は毎日手をぬかずきっちりやってる...と思わずにはいられず、昇々さん芝居楽日なぞ熱演にはほんとうに感心させられました。こんな真剣に全力でやってくれるとはおもってなかった。人気あるプロを舐めており深く反省しました。
自分が立川流以外、しかもあまり好みでなかった新作落語でもまさかこんなにもウケる感心させられるとはおもっておりませんでした。これほど人間の認識を軽く変えさせるだけの感動を与える落語とは、けしてばかにできないものだなあ。そんな気づきがあった今日この頃です。
左三階松☟ 立川一門の定紋
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