みなさま、こんにちは。北川です。
今夏話題をさらった映画「ルックバック」(藤本タツキ原作)がはやくもアマプラで無料視聴できるようになりました。
エイベックスピクチャーズ製作58分。多言語展開されておりわたしはMGM英語版(日本語字幕)をみたのですが、アマ解禁をおしえてくれた友人に2年前のまんがウェブ公開の経緯から遡って周辺情報をくわしくレクチャーしてもらい、アニメなれど日本語説明にたよらない映画演出的コマ割りの「漫画と友だちへの愛」。 そしてみる者の胸に突き刺さる、漫画にすべてを捧ぐ青春コンテクストに打ちのめされました。
サントラの絶妙さに落涙します。エイベックスもうまくはまったなとおもう。自分が苦手なアニメでもこれだけきれいなグラフィックで泣き入るナラティブには珍しくすんなりまいりました。
さて。
本件、原作はいわくつきの執筆背景があるそうで。旧聞に属しますが京都アニメーション放火事件(犯人は盗作を主張し逆恨みからの犯行)への無念をプロットの下敷きにしています。
作者藤本さんは京アニへ深い敬愛があり、事件へのえも言われぬ哀しみと決意をその1年後本作発表で表現したとされます。事件当時も漫画家であり自分の人生を漫画制作によって自己実現できている己も、自作ルックバックには主人公がメタファーとして登場します。
映画のすばらしさを2点述べます。なおねたばれを含みますのでご留意ください。
●画のきれいさ。言葉にたよらない表現力
原作者藤本さんの画力の高さはよく喧伝されるのですが、本アニメの監督押山さんのディレクションとして極力原作の繊細な絵を再現すべくセル原画に異様に精緻な書き込みを(ふたりの主人公表情ほか人物画はとくに)狂気といわれるほど自身で8割がたやり遂げた尽力で映像としてのきれいな絵が完成しています。(友人よっちゃんによるレクチャー引用)
アニメの場合、リアルの人間が出演する実写映画と違い台詞がなく動きがないシーンは通常減らします。キャラクターが動き話すさまがアートフォームの魅力特性だからです。
ところが原作さながらルックバックというタイトルのとおり、まんが制作に没入する主人公が机に張り付いてこちらに背中をみせる姿と簡素な室内の引きアングルがひたすら本作では続きます。
実はこれは、漫画を描き続けるにはひたすら膨大な作業時間と根気が必要という必然、漫画家自身が日常を客観的に表現したもの。
毎日毎日おなじ空間でひたすらねばって漫画は完成に辿り着く。この気が遠くなるような現実の労力、膨大な時間と季節の推移。そして漫画を絵を描くのが好きで、ひたすら没入する様がきちんとアニメーションで表現されている。言語や記号にたよらない絵によるメッセージ、そして言葉を極力排した感情表現の出来栄えがじつにすばらしいです。
ある意味、実写映画さながらの上手な演出で奥深い情報提示の在り方に感じます。
●サントラ楽曲(OST)の美しさ
物語舞台は山形の設定なのですが(実際の藤本さんは秋田出身)たんぼや山あいの風景がよく通学や移動の際にきちんと描かれ(自転車ではなく徒歩)冬の雪道をあるいてコンビニにいったりする生活感がリアルに表現されます。ピアノやシンセのみで演奏されたハルカナカムラの繊細なインストがこれら日常のきれいな線画に佳く合います。
さまざまな時間の推移を絵のみで表現(理解できるように変化をつけていく)されているのが本作の大きな特徴なのですが、時間や感情の変化を言語による台詞や説明にたよらず、画と「音楽」のみずみずしさは相まってきわめてエモい表現になっています。ピアノ以外に場面転換であいみょんやコーネリアス風のシンセによるアクセントがはいるのもわかりやすい。
物語最後に大切な友人のあっけない死が訪れます。あれだけ学生時代約6年ほぼ全生活を漫画制作にささげた2人の最初の接点で、小学校卒業時最初の会話さえなかったならば、早い別れ 死ぬこともなかったんだろと生き残った藤野は嗚咽します。この急な京本の死による藤野の混乱と気が遠くなる哀しみは言葉もすくなくきちんとSEでもって増幅されています。
故郷にかえり死者の自室にいくと、かつて実家の自分の部屋とおなじで漫画に関するものしかありません。コミュ障の若い女性がひたすら没入した絵を漫画を描くこと。それしかなかった人生だった。自分もおなじ。
そんな相棒が共作の画業にはいるきっかけである自分との邂逅がなかったら、20歳で死なずにすんだはず。彼女の部屋のまえ、部屋の中で涙を流す藤野の哀しみはひたむきな熱意の死滅にではない。濃密な長い時間をすごした特別な友だち。自分と似た漫画「しか」ない唯一の友人がなぜ死んだんだろ、という無念さに打ちひしがれる様が胸に突き刺さります。原作者の京アニ事件へのやるせなさがなぞらえてあるかのよう。
物語の最後、売れっ子の藤野はいまや仕事となった漫画制作でデスクにはりついて、おくやみの中断後また仕事を再開していく。供養の持ち帰った四コマ漫画を窓にはりつけてから。自分の原点で京本とまんがへの圧倒的な愛です。それは2人にしかわからない。尊い
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