みなさま、こんにちは。北川です。
近頃雨天ばかりで工程表は後ずればかり。そこへまた細々としたご依頼も加わりてんやわんやしております。
6月の本格入梅がどうか遅まりますように。
最近、友人のウチナンチュに偶々あったのですが、タクシードライバーの彼はあと6年かけ個人タクシー開業を目指しています。10年の乗車経験、無事故無違反を経て開業できるそうです。
個人タクシーといえば。
むかし結婚した頃丸の内勤務時代、毎晩12時頃力尽きて帰宅するのによく利用した忘れじの1台を思い出しました。
毎晩会社の前に10台くらい個人タクシーが並んで待っていた時代。
本日は丸の内に毎晩スタンバイする個タク界隈で、世界に1台しかないレアなタクシーとして名を馳せたジャズタクシーAさんの伝説をお伝えします。
私も3回乗車する僥倖に相まみえました。
Aさんはジャズマニアで有名な個人タクシードライバーでしたが、営業車のトランクにはカーステに繋がれた巨大な「真空管アンプ」が積まれていたのです。なんと。わたしも鎮座するアンプを見せてもらいました。
なので基本夜しか営業せず予約客も多く、大荷物の方はNGという世界に1台しかないタクシーだったのです。
※惜しまれながらかなり以前に御高齢で引退なさっています。
Aさんはチック・コリアやヘレン・メリルがツアーで来日すると、貸切で東京滞在中アテンドするくらいアメリカ人ジャズミュージシャンたちにも有名で羨ましい限りでした。
それとジャズファンでないお客様にもレアなサービスを供していたことでも有名で、誕生日等デートの貸切クルージングと
なんと「極秘のプロポーズ・クルーズ」を男性からご予約承り、成婚率99%をささやかな自慢にしていました。
山の手を周遊してから勝鬨橋のたもと、海べりでエンゲージリングが「無事」受け取られたなら、Aさんがハーモニカでサッチモを奏でて冷えたシャンパンを開け祝福してくれます。
トランペット会得までは練習時間がなかったとのことですが、それでもロマンチックなプロポーズクルーズには間違いありません。比較的堅いサラリーマンとジャズファンが望む古典的クルーズは相応の嫁さん候補たちにきちんと通じていた模様です。
もっとも、事情聴取を事前にしたうえ、Aさんからみて成婚微妙と思うケースではご遠慮することもあったようですが笑
当時、有名人Aさんの車に夜中疲れ果てて乗車し
「とにかく毎日くたびれますねや、、」
とぼやきを聞いてもらったことがあります。
雪かきのように仕事が増え続けてキリがない。
どんな工夫したら新鮮な気持ちで仕事できますかね、、、
するとAさんはジャズでなく
今日はこれを聞いてくださいよ。とカーステのコンテンツを替えました。
三代目柳家小満んさんの「大山詣り」でした。(古典落語いろはの「い」)
小満ん師匠はかの有名な名人・八代目桂文楽の高弟。
「落語は、人生の縮図。しんどいとかつまらなく感じる渡世をいかに面白くするかの知恵があるとおもうよ。疲れ果ててるときに聞いて気分を変えてみてはどうかなあ?馬鹿々々しい噺をじっくり聞くとかさ」
そう、ジャズマニアは落語ファンでもあったのです。年配の江戸っ子ならでは。
たしかに、車中ふたりきりで30分。出囃子以外鳴り物がない噺家のモノローグを聞いていると奇妙な気分になります。
普段こんなにのんびり話す人と相対することは仕事では皆無でしたし。
その日は夜中帰宅すると普段と違う不思議な気分になったのを覚えています。
Aさんへお礼のメールを送ると、ていねいなご返信をいただきました。
「うちの一人娘はJFE商事の総合職で入社したばかり。毎日馬車馬のように働いていて、やれくたびれただの文句ばかりいいますよ。
もっと気楽に考えなよ、と声掛けすると『お父さんみたいに趣味が仕事みたいな人と違うの』と言い返してくるのですが、、、
大会社のサラリーマン、多少の失敗しても死にはしないでしょう。
本人はプライドもあるし競争に負けたくないのはわかるけれど、まずは毎日自分が楽しく働けるように気分を変える術、夢中になれる趣味の時間があるといいのではないでしょうかね」
そう貴重なアドバイスをもらったのでした。
当時は趣味というか運動や音楽鑑賞の時間も余裕もなかった時代でしたが、落語をぼちぼち聴き始めたものです。
今でも八代目文楽の口調のよさが好みですし、初めて生で聴いた立川談幸さんの声と口調は忘れられません。
にこやかに平伏お辞儀をして、高座を降りるときの一転無表情なさまも。
まったく違う立場の人から、自分の困ってることを説明してアドバイスをもらうと結構役に立つ。
Aさんから助けてもらった記憶が、伝説のタクシーの思い出にはあります。
以上、タクシーをきっかけに古のセルフブランディングを思い出すの巻でした。
毎々拙文ご精読を有難うございます。
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