みなさま、こんにちは。北川です。
その昔、20年くらいまえ。銀座のイエナ書店そばにWFGのリペア工房がありました。WFGは原宿のほうが広くて快適なのですが当時の職場にちかい銀座店のほうがついでに寄りやすかった。本日は革靴に纏わるおはなしをします。
老婆心でありますが。靴底のかかと、甲の真裏、爪先が傷んだ靴をそのまま履き続けるのは、ほんとうに「足元みられる」のでやめたほうがよいです。結局3足くらいを順繰りによく磨いて履き続けるのが、どれも長持ちしてリペアにだしても残りでローテを組めるためベストです。
わたしの当時職場のドレスコードは、革靴にジャケパンかスーツで、革靴の底がビブラムでなく、レザーである場合は当然1年たたずに靴底には穴が開きます。ドレスシューズを履かないいまとなっては遅すぎた感でしかないのですが、リペアのときにビブラムを替わりに貼り込めばそうは穴は開かず、かどが減ってくるのも1年くらいは猶予があります。コストも2/3くらい。
ドレスシューズとは、エドワードグリーンやジョンロブを頂点とする英ビスポークから、スペインYANKOや国産REIMAR、三陽山長などメーカーの各製品はレンジ、品質にかなり幅広い差があります。20年まえだとブランキー二やプレミアータなどイタリアの独特な靴も雑誌によく登場し実際流通していました。プラダもそれなりに。10万円のブランキー二を買ってそこそこ履いたはいいものの5年のち、フリマで要リペアのまま1万で手放したのはまあ減価償却といってよいかと、、忍者の靴と呼ばれたコバ張ったこの靴はいまみても派手ですね。
駅のミスターミニットでも当然に靴の修理はできます。傘修理やキーコピーもなんならあわせて依頼。
そこでわざわざ靴専門店で1万円だしてリペアをたのみ3週間後また取りに行く手間を惜しまなかったのは単純に見栄だけ。ミスターミニットでもクオリティはそれなりです。見栄をはるのですが、靴磨きは自分でやっていました。
おもうに革靴をもっと沢山買いたいのですが、置く場所もなく靴屋にいってリペアをしてもらうことで、精神的に新品を買う代替行為としていたような気がしています。それにしてもスーツやシャツ(のクリーニング)、靴の手入れに数万を費やしていた時代があったとはいまの25歳くらいのJTC新入社員にいってもまず信じないでしょう。
はなしを銀座の工房に戻します。
結局年に数回は靴底修理に職場から銀座に歩いて行っていたわけですが、ある日、いつもの寡黙なおじさんが姿を消し、痩せた若いハンサムガイがチェックのシャツを着ていておじさんの代わりに姿を現しました。エプロンはおなじでしたので、いまのあるじだと気づいたわけです。まるでレコ屋のようにお洒落。
大和さんというスカパラのメンバーでも通用しそうな日活顔の兄さんは、まえにいたおじさんと違って、わたしの持参した靴を矯めつ眇めつなでさすります。しげしげと2分くらい観察するのです。「オールソールのレザー貼替をおねがいします」というわたしに、2分の予審を経た結果「もったいないので、ビブラムでかかとと爪先半分の貼替のほうがよいのではありませんか」と、ど真ん中に穴の開く頻度が高い(蹴り出しの圧が人よりつよい)わたしの説明をきくと、そう提案してくれました。ここまでの様子にわたしは靴屋の神様を見た気がしました。小僧の神様ではありません(文豪志賀直哉による商店の小僧とお旦秘話。感動の名作)
感動の接遇とはこのようなときに体感します。
お客様のニーズ、状況を的確に把握して、自分の経験値からベストであろうソリューションを丁寧に「ご提案」する(けして説得しようとしない)。判断をお客様に委ねるのです、自信が備わった神様は。
対面セールスの極意とは、お客様に 買います!それおねがいします!!と言わせる納得をしてもらうことです。説得を試みるのは2流なのですな。このような提案を受け入れる客側には、発言者への信頼が不可欠です。あなただから信じる、あなたから買いたい、あなただから頼みたいのだ、これがセールスクラーク(もしくは戦コン)にとっての理想です。感動をうむ心地よい体験の約束。
大和さんと目をあわせて会話していると、革靴のプロの自負がひしひしと伝わってきます。自分で作れるのに直すプロになったということは、まともな革製品が一生なおして使える逸品であるのを啓蒙するためにやってるのかなとおもうくらいです。
それと彼のひかえめな声がまた素晴らしい。明晰な説明を自慢たらしくない抑えた声量ではなし、最後に私の目をみるのです。これにはまいります。お金が発生する依頼事項でなく、金銭を介さない友だちになりたいくらいです。セールスクラークと違い職人でもある彼は、そのスマートな容姿で相対者と目線をしっかりあわせても失礼がないのをよくわかっていたと思われます。
対面セールスでもちろん誠意ある接遇はだいじなのですが、声と顔のよさ、自然な笑顔はとにかく有利で信頼の礎となります。
個人的には初対面であれば、とにかく相好を崩さず、聞かれてること以外不要なことはいわないくらい、慇懃で距離感を保つ控えめな丁寧さがこのみです。お客さまのニーズを確認する質問をきちんとしてくれる人がなお一層のこと。
そんな至高のリペアマン大和さん。時は流れ現在、馬車道で「ア・プレスト・カーレ」という革靴の修理工房を経営されています。
イタリアで修行した本格派は値段もそれなりですが、腕は抜群です。ぜひ一度、ごじぶんのとっておきの革靴を預けてみてください。極上の体験が味わえます。
毎毎拙文御精読をありがとうございます。
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