温故知新

みなさま、こんにちは。北川です。

先日、週末めずらしく纏まった時間があり雨天であまり外出する気にならず、アマプラで映画を観ました。

故ヒース・レジャーの出世作である「ブロークバック マウンテン」がレコメンドであがってきたので、ひさしぶりに再見。

アルマ役のミシェル・ウィリアムズとレジャーは配役そのまま、のちに結婚して娘を儲けます。成長した遺児は亡くなったおとうさんそっくりで不幸な死を遂げたレジャーをしみじみ思い出します。それとスターになる前のアン・ハサウェイが脇役で輝きを放ちます。

この映画は2つのイシューを孕んでおり、まず壮大なワイオミングの美しい風景を時間かけロケした点。それと、公開時たいへん話題を巻き起こした「カウボーイの同性愛」です。

映画が公開された当時、ダイバーシティの概念はまだ今ほど広く浸透していませんで、アメリカ中西部、南部のカウボーイたちはこぞってありえないと反発したことを思い出します。結果としてオスカーを獲得し先鞭をつけたことになりますが、肌の色と性別/セクシャリティについて偏見をあらわしてはならない。アメリカ国民へ静かに受容を促したようにおもいます。

折しも世界中から弔辞を集めた故坂本龍一さんも、唯一の主演映画で同性愛の演技をみせてくれましたが、ブロークバック然りとてもせまい世界で生きてきた青年による類似した演技のように感じられました。

物語はじつにカウボーイたちらしい偏狭な価値観、プアホワイトの狭い世界線に終始するのですが、俯瞰してみるに、主人公のジャックとイニスが大自然のなかで互いに愛情を抱き、そのことで数か月のハードワークを乗り切った体験が後半生に影響を及ぼすところ。

イニスが実の娘に、おまえが結婚するカークはおまえを愛してるのかい？と会話したその一瞬あと、クロゼットをあけ扉うらの葉書をみて死んだジャックのことを思い出す、結婚に失敗した自分にとって永遠の愛を思い出す瞬間です。映画はそこでおしまい、ドラマチックなエンディングです。

最近、イタリアの至宝ベルトルッチによる映画史の秘宝「暗殺の森」4kリマスターBlu-rayが豪華解説、秘蔵ポスターデータつきでリリースされました。控えめに言って最高です。中古dvdが26000円など高騰したままの市場に、数千円で円盤供給に至った配給元には頭があがりません。（上記画像が新装パッケージ）

この映画はファシズム台頭前～崩壊までイタリア社会の不穏な空気にみち満ちた緊張感しかない作品です。が、映像美と編集演出の妙味はイタリア映画不朽の名作といえましょう。

雪が残る森の中で暗殺が実行される最後のシーケンスは、この物語で人の死が持つ意味性と社会の歪みを考えさせられるのですが、ブロークバック・マウンテンで既に死んだ人知れぬ恋人のことを考えるのと、近いものを瞬間的に感じました。

人の死は生と連続している、立花隆さんはそう述べて亡くなりました。但し、映画表現であつかう人間の死は大抵物語性を孕んでいます。

ブロークバック・マウンテンは性別問わない愛と激情について表現したわけで、狭小な世界で人生をおくる青年の純粋な愛と死。暗殺の森で、主人公が追い詰められ次第に迎える死の運命。映画だけに美化された演出ですが、1人の死が別の人間に与える影響についてそれぞれ描かれています。これこそ映画ならではの言葉にならない美しさです。

ネタバレを避けるため抽象的な記述になりましたが、今年になり身近な人2名が帰らぬ人となり生死について色 々考えさせられる今日此の頃です。そして映画はいつも裏切らない。

毎毎拙文ご精読をありがとうございます。